COLUMN

コラム

2023.05.15
ピアニスト今泉翠が弾くオリジナル曲「Dear my daughter」

今回はPLAY新丸子に、ピアニスト今泉翠(いまいずみ・みどり)さんをお招きし、オリジナル曲「Dear my daughter」を演奏していただきました。今泉さんは、東京音楽大学在学中にピアノデュオ「FUTABA」を結成。第5回「万里の長城杯」アンサンブル部門 大学生の部最高位、第4回日本アンサンブル・コンクール連弾部門最高位、第27回ピティナ・ピアノコンペティション全国大会デュオ特級部門優秀賞ならびに全日空賞等を獲得。 現在は福岡にて後進の指導にあたっています。本曲はFUTABAでタッグを組んでいたIZUMIさんによるオリジナル曲で、IZUMIさんの愛娘にあてた楽曲だそう。

本稿では、ピアノデュオに打ち込んだ学生時代のエピソードや、当時がどのように現在につながっているかなど、今泉さんのピアノ人生についてお話しを伺っていきます。

今泉翠(いまいずみ みどり)

Q
学生時代にピアノデュオに打ち込んだ理由を教えてください。

「元々のきっかけは、相方であるIZUMIに、病院でのボランティア演奏に誘ってもらったことなんです。病院にあるピアノは一台ですから、一台を二人で演奏する…というところから、デュオのレパートリーを勉強していきました。ところが、ボランティア演奏といっても、なんの受賞歴もない状態では、門前払いされてしまって。そこで、コンクールを受けるようになり、次第に演奏機会も増やすなど、活動を本格化させていきました」

Q
デュオ活動を通して、印象に残っている経験はありますか。

「やはり多くのコンクールを受けたので、コンクールについてはいろいろな思い出があります。コンクールは何回受けてもものすごく緊張するんですよ。毎回、明日世界が終わればいいのにと思うくらい思い詰めていました。相方とは元々大親友ではあったのですが、コンクールを通して極限の緊張状態を何度も一緒に乗り越えたので、単なる友情関係を超えて強い信頼関係が築かれていったと思います。どちらかがミスして動揺してしまっても、一言小さな声で『大丈夫』って声を掛 け合って。相方とは精神的にも支え合いましたが、技術的にもお互いに補い合う関係だったんです。彼女は深く豊かな音を出す技術があり、わたしは音は軽いけれど、指が回るほう。コンクールでよい成績をいただけたのも、背中を預けあって演奏できたからだと思います。

デュオ活動を通して、貴重な出会いもありました。あるときイタリア大使館で開かれたデュオの演奏会へ行き、すばらしい演奏家に出会いました。それがフリチェッリ先生と、カルマッシ先生です。あまりに演奏がすばらしく、その場で連絡先を伺いました。その後、卒業旅行としてイタリアを訪れたとき、電話でアポをとった上で、飛び込みでレッスンを受けに行きました。ラヴェルの『スペイン狂詩曲』を準備していったのですが、先生は音楽が身体に染み込んでいるので私たちとはリズムの理解の次元が違いましたね。日本の先生とはまったく違う観点からレッスンしていただいたので、いただいたアドバイスがすごく衝撃的だったのを覚えています」

今泉翠(いまいずみ みどり)
Q
FUTABAのその後と、今の主な活動について教えてください。

「FUTABAはその後、ソニー・ミュージックアーティスツとアーティスト契約を交わし、日本全国で演奏活動をおこなったり、ユニバーサルミュージックより、アルバム「FUTABA」をリリースしたり、「題名のない音楽会」などたくさんのメディアに露出したりと精力的に活動しました。今はお互いに結婚して、相方はアメリカで子育て中ですが、自分たちのライフスタイルに合わせて活動を続けています。

思えば、相方とは人生の半分以上を共に過ごしています。長い活動期間の中では、ときに意見がぶつかり合うこともありましたが、お互いに理解し合い、お互いを思いやることで乗り越えてくることができました。お互いの環境やライフステージが目まぐるしく変わっていく中でも、機会をいただいて演奏できること、そして相方と今も変わらず、学生時代のように笑いあえる関係でいられることに、感謝の思いでいっぱいです。

私はというと、今は福岡で子どもたちを主な対象としてピアノ教室を開いています。夫の転勤で福岡に転居したのが一昨年のこと。教室をオープンすると、あれよあれよと40人ほど生徒さんが集まってくださいました」

Q
大人気のお教室ですね! 子どもたちを通して新たに学ぶことはありますか?

「先日発表会を開催したのですが、その準備にあたって子どもたちに『弾きたい曲はある?』と聞くと、みんな各々あるんですよね。自分自身は幼少期、ピアノ講師だった母の手解きを受けていたのですが、考えてみると“上達する上で今弾くべき曲”は弾いてきましたが、自分自身の“弾きたい曲”を弾いたことってあまりなかったかもしれないなと。なので、子どもたちの『この曲が弾きたい!』という純粋な思いに感銘を受けました。弾きたい曲があるって、すばらしいこと。もちろん、 レベルに合って勉強になる曲に取り組む必要性は大いにありますから、発表会では課題曲と、自分の好きな曲の2曲を弾いてもらうことにしました。…でもすごく大変でしたよ(笑)。ほとんどピアノの経験がない子どもたちも多い中、どうやってその弾きたい曲を弾かせてあげられるか、さまざまな工夫が必要でしたから。次の発表会がすでに恐ろしいです(笑)」

Q
教える上でも、デュオ活動をはじめとし、学生時代の経験が生きていると感じますか?

「もちろん感じます。あの頃は早朝6時から大学で朝練をするのが日常で、食べるか寝る以外はずっとピアノを弾き続けていたので、技術面は当時しっかり鍛えられたと思います。今振り返るとよくやったなあと思うのですが、当時はそれが当たり前という感覚でしたね。ただ、練習こそたくさんしましたが、正直に言うと座学はそれほど興味がなかったので(笑)、あのときもっと勉強しておけばよかったな〜というのは思いますね。今、一生懸命勉強しています」

今泉翠(いまいずみ みどり)
Q
PLAY新丸子を見ていただきましたが、物件の感想を教えてください。

「すごく豪華なマンションで驚きました。まず気に入った点は、内廊下です。高級感がありますし、楽器を持ち運ぶ方にとっては雨の日でも濡れないのがよいですね。あとは防音性能がしっかりあるのに、部屋に圧迫感がないところがすばらしいです。わたしが以前住んでいたところは、機密性が高すぎて、耳鳴りがしていたんですよ(笑)。こんな居心地のよい空間で、24時間弾けるなんて、いいですよね。学生時代は、本番に間に合わせるために深夜まで練習していることがざらに ありましたから。もちろん、ホールの存在も最高です。自分だったら、ひたすら練習に使います。ほかにも、学生時代は他の楽器の伴奏をやる機会も多いので、合わせの練習場所としてもよいですね。本番ではスタインウェイを弾く機会が多いので、慣れておきたいという意味で、スタインウェイのピアノが入っている点も魅力的です」


PLAYシリーズには音大生が多く入居しています。最後に、音大生に向けてメッセージをいただけますか。

「学生時代は、人生でもっともピアノを練習でき、技術的にももっとも上手な時期だと思います。年を重ねることで、表現力は深めていくことができるかもしれませんが、技術力に関しては、若い頃の自分には敵いません。そんな貴重な時期だからこそ、留学でもコンサートでもライブでもなんでもいいですが、ぜひいろんなことに挑戦してみてください。学生時代に“やりきった経験” が、必ず音楽家としての基礎となって、将来いろんな局面で生きてきますから。そして、この先ライフス テージが変わっていっても共に歩んでいける音楽、そしてかけがえのない友情を大切に、学生生活を謳歌してほしいと思います!」

今泉翠(いまいずみ みどり)
「FUTABA」公式YouTubeチャンネルはこちら