自宅MAエンジニアから学ぶ!
映像作品の「音」を編集できる
環境を作る<2>
2022.02.02
3回に分けて、主に映像/動画クリエイターに向けてのHowTo記事を掲載します。これは、専門メディアVIDEO SALONと作曲家/MAエンジニアの三島元樹さんにご協力を頂き実現したもので、「自宅MAエンジニアから学ぶ!映像作品の「音」を編集できる環境を作る」と題して、三島元樹さんがVIDEO SALON誌に寄稿された記事の要点を抜粋/編集して掲載します。
今回は第2回目となります。
これから環境を作ろうと考えている方のほか、すでに環境を作られている方にも参考になるものと思います。
ぜひご一読ください。
VIDEO SALON 2020年12月号、2021年12月号より一部抜粋
三島元樹 (作曲家/MAエンジニア)
個人プロダクションSTUDIO MONOPOSTOを設立し、映画やWEB CMの音楽、企業または個人作家の映像作品への楽曲提供など、映像に関わる音楽を作る傍ら、レコーディング/ミキシングエンジニアとしてアーティストのレコード制作に参加したり、映像コンテンツのMAなども手がける。2020年に玄光社から「映像制作のための自宅で整音テクニック」を刊行。
映像作品の音を自宅環境で正しくモニタリングするにはどうしたらいいのでしょうか?前回(第1回)は、モニタースピーカー選びやセッティングについて解説し、部屋の響きをコントロールするルームアコースティックの重要性について触れました。今回は僕が自宅スタジオで実践している吸音パネルをご紹介します。
吸音パネル
僕の自宅スタジオの場合、壁までの距離が左右対称ではないので、どうしてもバランスが崩れてしまいます。そこで吸音パネルで調整することにしました。というわけで、PrimacousticのLondon Room Kit London 10という製品を購入。これを定在波の発生する箇所を探りつつ壁面などに設置してみました。それでもやはり低域の左右差は解消されませんでしたね。ですので、この点についてはちょっと力業になるんですが、右のスピーカーのバスレフポートに詰め物をして低域を抑えることで対処してみました。スポンジやプチプチ梱包材などいろいろ試した結果、ディスプレイ用のクリーニングクロスを使った場合が一番自然だったので、それを採用。今回は左右で違う対策をしたことになるのであまりオススメはできませんが、バスレフポートを塞ぐテクニック自体は割とメジャーかと。素材と塞ぐ面積で微調整できるので、スピーカー背面の音響調整用イコライザーだけでは制御できない場合には試してみるといいでしょう。
一般住宅をスタジオ化するにあたって重要なのが吸音と拡散のバランス。特に吸音は最初に手をつけるべきポイントでしょう。さらに、この吸音に便利なアイテムをご紹介しつつ、どういった場所を吸音すればいいかを考えていきましょう。使用するアイテムですが、最近、音楽制作界隈で話題となってる株式会社静科のSHIZUKA Stillness Panel SDM(以下、SDM)をお借りして試してみました。
パネルをスピーカーの背面と側面を囲うように設置
まずはパネルをスピーカーの裏から横を囲うような感じで設置しました。これで音はかなり変わりますね!低域がすごく出てきて、そのぶん全体的な音量感も大きくなりました。あとは、やはり吸音の効果があるようで、パネルなしの状態に比べて部屋の響きが抑えられてタイトな鳴りになってます。ただ、100~200Hzあたりの低域がちょっと主張しすぎているのが気になりました。このあたりは、パネルをもう少し離して設置することで解決できるような気がします。
パネルをリスニングポイントの左側面に設置
オフセット配置による響きの偏りを改善するために、パネルを1セット、壁が遠いリスニングポイント左側に設置してみました。本来は両サイドに置くべきですが、右側には電子ピアノがあるので今回は断念しました。それでも効果はしっかりと出ていて、やはり低~中低域あたりがしっかりとして好印象です。センター定位も明瞭になりました。
パネルをリスニングポイントの背面に設置
最後に、パネルを自分のリスニングポジションの後ろに置いてみました。今回はこのポジションが一番しっくりきました。変化としては、他の場所に設置した時と同じ傾向なのですが、そのバランスがとても良いです。音の粒立ちも良く、ミックスのジャッジがしやすくなりました!
個人的には確かな効果が得られたし、思ったよりも軽いので設置も楽だし、安定して自立させられるのでなかなか使い出のある製品だと思いました。吸音すると、部屋のS/N比(信号対雑音比)が良くなったように静かになるので、細かな音の聴き取りが可能になります。ただし吸音しすぎると逆に不自然さが出てきてしまうので、適度な響きを残したほうがいろいろと良い結果になるでしょう。冒頭でも述べた通り、拡散(音を乱反射させて散らすこと)という手もあるということを覚えておいてください。
ちなみに、今私が愛用しているVERY-Qとの違いですが、より大きな効果を期待するならSDMのほうがオススメです!そのぶんお値段も高くなりますが。VERY-Qの強みは、やはりコスパの良さですね。
他の吸音パネルもそうですが、効果と価格はある程度比例するので、目的と予算に合った製品を見極めるのがポイントです。
関連製品情報
Primacoustic London Room Kit London 10
株式会社静科 SHIZUKA Stillness Panel SDM
▶ 第3回目は、音響補正ツールについて簡単にご紹介していきます
『「音」を編集できる環境づくり』に興味ある方は、以下のVIDEO SALON誌や書籍もご御覧ください。