COLUMN

コラム

2024.10.04
【PLAY新丸子イベントレポート】黒田亜樹さんによる「グランミューズ・サロン」
黒田 亜樹(くろだ あき)

2024年8月31日(土)、PLAY新丸子サロンホールにて、ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)が後援する企画「グランミューズ・サロン」が開催されました。「グランミューズ・サロン」は、講師となるピアニストのもとに愛好家が集いピアノを弾き合う、ピアノを通じた新しい大人の交流の場です。講師は時に実演を交えつつ、演奏について助言しますが、あくまで批評や審査の場ではなく、楽曲、演奏、そして音楽全般について楽しく語らうことが目的です。

今回講師を務めるのは、黒田亜樹さんです。

黒田 亜樹(くろだ あき)Profile

東京藝術大学卒業後、イタリア・ペスカーラ音楽院高等課程を最高位修了。フランス音楽コンクール優勝。ジローナ20世紀音楽コンクール現代作品特別賞受賞。現代音楽演奏コンクール優勝、朝日現代音楽賞受賞。卓越した技術と鋭い感性は作曲家からの信頼も高く、「ISCM世界音楽の日々」「現代の音楽展」「サントリーサマーフェスティバル」「B→Cバッハからコンテンポラリーへ」など、主要な現代音楽演奏会にて内外作品の初演を多数手がける。 室内楽奏者としても内外の共演者からの信頼は厚く、特にクラリネット奏者のA.カルボナーレとは20年以上に渡ってCD、ラジオ、テレビ等でも共演を重ねている。 2013年バンドネオン奏者の小松亮太とともにピアソラ作曲オペラ『ブエノスアイレスのマリア』を、ピアソラ元夫人で歌手のアメリータ・バタールを迎え完全上演し話題を呼んだ。国外ではサルデーニャのSpazio Musica現代音楽祭でブソッティ作品の初演、パルマのレッジョ劇場でキース・エマーソンの代表作「タルカス」を現代作品として蘇演、シチリアのエトネ音楽祭出演などイタリアを中心に活動。 2014年アメリカのオドラデクレーベルより「火の鳥」~20世紀音楽ピアノのための編曲集リリース。イギリスBBCミュージックマガジンで5つ星を獲得、レコード芸術誌特選盤となる。 「東京現音計画」メンバーとしてサントリー芸術財団第13回佐治敬三賞(2013年度)受賞。 ピアノ演奏法の優れた教師としても知られ、国際コンクールの上位入賞者を多数輩出している。元ペスカーラ音楽院教授、2022年秋よりリドット国際アカデミー教授。


参加者の悩みを次々解決へ導く驚異のレッスン

黒田 亜樹(くろだ あき)参加者の悩みを次々解決へ導く驚異のレッスン

今回の講師は、イタリア・ミラノに拠点を置き、世界を股にかけて活躍されるピアニスト、黒田亜樹さんです。魅力的な演奏にファンが多いことはもちろん、PTNA特級ファイナルの審査員長も務めるなど、指導者としても大きな功績をもつ黒田さんの指導を受けられる貴重な機会とあって、他県からも参加者が集まりました。

今回は、系統の近い曲を選んできた参加者さんが連続して演奏していく形でプログラムを編成。トップバッターのお二人が緊張の中演奏を終えると、「せっかく来てくださったのでまずはお悩みを教えてくれたら、そこからお話ししますね」とにこやかに語りかける黒田さん。「フレーズが短いと指摘されるんです」と言う参加者さんに、「それはきっと…」と拍の捉え方の誤り、跳躍するときに生まれてしまう間、歌いすぎて生じるリズムの乱れ、それらの解決方法と日頃の練習法などをアドバイスします。

そして、「音楽性を感じるすばらしい演奏だったので、あえてレベルの高い話をします」と続け、言及されたのは音色作りについてです。「音色を変える」とはよく聞くフレーズですが、実際にどのようにすれば音色に変化が生まれるかまで言語化するのは至難の業。黒田さんはその難題を、秀逸な例え話で解決します。

「たとえば4声弾いているとき、強弱記号に対して4声すべてを一律に変化させるのは、例えるなら“やきそば作り”。野菜も肉も麺もソースで一気に炒めてしまう感じ。大味で、のっぺりとしてしまいます。でも一つ一つの声部を丁寧に味付けしてみたらどうでしょう。どこかの声部の音量が下がればどこかの声部の音量が大きくなったりして、すごく表情が出てきますよね。そんな各声部の駆け引きの結果が“音色”と呼ばれるものだと思うんです」

さらには、各声部をコントロールする技術を身につけるための具体的な練習法まで教えてくれ、「もっとよく見えるところに来て!」という声かけに背中を押され、みなさんがピアノの周りに集まります。

黒田 亜樹(くろだ あき)参加者の悩みを次々解決へ導く驚異のレッスン

会の後半にはさまざまな練習法を実際にやってみる時間も設けられ、「この練習はしたことがなかった」「単純に見えてかなり難しい!」とさまざまな感想が飛び出します。一方で「この練習を続ければ、めざす演奏に近づける気がする」という確かな手応えを掴んでいる様子が見られました。

この調子で、個別的なアドバイスもありつつも、ほとんどは全員にとって目から鱗となるような指導の連続なので、ずっと自分がレッスンを受けているかのような充実した時間が続きました。長丁場ではありましたが、黒田さんの巧みな話術とユーモアに引き込まれ、笑いが絶えず、時間があっという間に感じられました。

黒田 亜樹(くろだ あき)体幹をぶらさず演奏するようアドバイスするシーン
体幹をぶらさず演奏するようアドバイスするシーン

最後には、お待ちかねだった黒田さんによる実演奏も。アヴェ・マリアでしっとりと癒やされたかと思えば、グルーヴ感満載のリベルタンゴで一気に興奮マックス!短い時間でしたが、魔法のような演奏にすっかり魅了されてしまいました。

「いろいろ指導したあとに弾くのは、わたしにとってもちょっとプレッシャーなんです。でも、自由に弾いているように見えて、わたしもたくさんのことを考えながら、日々の地道な鍛錬の上で演奏しているということをお伝えしたくて、最後に実演するようにしています」という言葉に、参加者のみなさんも大納得。「本当に贅沢な時間でした!」と満面の笑顔を見せていました。


抜群のアクセスで演奏活動を後押しするPLAY新丸子

今回も、グランミューズ・サロンの会場となったのは入居者専用ホール付き物件『PLAY新丸子』です。イベント後に、黒田さんにお話しを伺いました。

Q
今回初めて『PLAY新丸子』にお越しいただきましたが、ぜひ物件のご感想をお聞かせください。

「すばらしい物件だと思います!まず、立地がとても気に入りました。わたし自身もそうですが、演奏家は各地を転々とする、旅ガラスのような生活をしていますから、アクセスのよさがとても重要です。新丸子は羽田空港にも成田空港にも行きやすいですし、新幹線の停車駅である品川や横浜へも簡単に出られますよね。駅近なので帰りが遅くなっても安心です。

24時間演奏可能*な点も、私にとっては必須条件ですね。20代の頃はいろんな仕事をしていたので、限られた時間で必死に練習しないといけなくて、時間の制約なくいつでも弾けることが重要でした。深夜に練習するためにスタジオ代を払うなら、多少家賃が高くても払ったほうがよいと考えて、当時から24時間演奏可能な物件に住んでいました」

*楽器により使用禁止や演奏時間に制限がございます。詳しくはお問い合わせください。

Q
入居者専用ホールの存在はどう思われましたか。

「自分だったら合わせに使いたいと思いました。居室はどうしても生活感があり人を招くことに抵抗があったり、人数によっては手狭だったりしますから、ホールに奏者をお招きできるのであれば本当に便利ですよね。あと、本番前は気分を変えて練習しておきたいという局面も多いので、そんなときにも活用できると思いました。スタインウェイが入っているのも本番さながらの練習ができて、よいと思います」

Q
レッスンの中で、スタインウェイの弾き方のコツのようなお話しもたくさんしていただきました。

「スタインウェイは性能がよいぶん、響きすぎてしまうときもあって、繊細な演奏表現のためには、細心の注意が必要なんです。本番ではスタインウェイを弾く機会が多いので、しっかり慣れておきたいところですが、最近スタインウェイは新品も中古もなかなか市場に出回っていないので個人で所有することが難しいんですよね。そういう意味でも、ぱっとスタインウェイを弾きに行ける環境というのは魅力的だと思います」


音楽は、言葉を超えて人と人をつなぐ

黒田 亜樹(くろだ あき)
Q
ところで、今日のグランミューズ・サロンでは、参加者の方が演奏をする前に、自己紹介をするよう求めていらっしゃいましたね。これには、どのような意図があったのでしょうか。

「演奏を聞けばだいたいわかるのですが、やはりどのようなニーズでレッスンに来ているのかわかったほうが、的確なアドバイスに繋がるので、お尋ねしました。コンクールに出たいのか、ただ楽しく弾きたいのかでは、アドバイス内容も変わりますよね」

Q
みなさんのお話しを聞くと、育児がひと段落したためにピアノを再開したという方、お子さんを寝かしつけたあとに電子ピアノで練習しているという方、昔から挑戦してみたくて最近独学で弾くようになったという方など、さまざまな環境下で努力されていることがわかりました。

「本当に熱心で前向きな方々が集まってくださって嬉しかったです。ブランクや独学を感じさせないすてきな演奏ばかりだったので、よい意味で驚きました。もちろん技術的なアドバイスはしましたが、音楽的にはお一人お一人の味が出ていて、すばらしかったですね」

Q
大人の方を対象としたレッスンでしたが、何か意識されている点はありますか?

「音楽を料理にたとえたとき、家庭料理をおいしく楽しく調理しようと考えています。

家庭料理を作る理由は、なにもお金がないからではなく、シンプルにおうちで作るごはんがおいしいからですよね。音楽やピアノも同様に、必ずしも一流フレンチの料理である必要はなくて、家庭料理ならではの魅力があります。むしろ家庭料理みたいな音楽を大切に育てていかないと、クラシック音楽の文化が終わりに向かっていってしまうと感じています。

たまに少し焦げてしまったとしても大した問題ではなく、これが一番だよって自分で思える味を提供できることが大事。その“味”というのは、人生経験や価値観から生まれてきます。ですから、お相手のパーソナリティを尊重して、それを生かしたまま、さらにおいしくする方法を考えるようにしている、ということです。

もちろん、逆もしかりです。プロになるのであれば、妥協は許されず、出していただくお金に見合うものを提供する必要がありますので、目的に合わせたスタンスで指導をしています」

Q
最後に、これから活躍の場を広げていく若手音楽家のみなさんにメッセージをいただけますか。

「もしかしたら今どき音楽なんて、生きていくには心許ないと感じる人もいるかもしれません。ですがピアノに限らず、自分に言語以外の表現手段があるということは、本当にすばらしいことだと伝えたいです。

私は30歳のときに単身イタリアへ渡り、家族や幼馴染もいない環境に飛び込みましたが、演奏を通してお互いを理解し、価値観を共有できたので、言葉の壁を超えて信頼できる仲間がたくさんできました。音楽がわたしに居場所を与えてくれたのです。だから音楽を信じてください。音楽こそ、AIに成り代われない、人と人をつなぐものだと思います」

ありがとうございました。

黒田さんの言う、「音楽は人をつなぐ」という言葉。それはまさに、今回のグランミューズ・サロンで体感したことでもあります。今日集まった方々は、年齢も性別もバックグラウンドも一人一人違うけれども、日々の生活の合間をぬって、大好きなピアノに真摯に向き合っているという点は共通していました。初対面同士で、序盤こそ緊張感もありましたが、次第にお互いの健闘を讃えあう雰囲気が生まれて打ち解けていき、最終的には和気あいあいと交流しながらお帰りになったのが印象的でした。

PLAYシリーズはこれからも、音楽を愛する方々に寄り添ってまいります。 。