024年11月17日(日)、PLAY江古田ホールCにて、ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)が後援する企画「グランミューズ・サロン」が開催されました。「グランミューズ・サロン」は、講師となるピアニストのもとに愛好家が集いピアノを弾き合う、ピアノを通じた新しい大人の交流の場です。講師は時に実演を交えつつ、演奏について助言しますが、あくまで批評や審査の場ではなく、楽曲、演奏、そして音楽全般について楽しく語らうことが目的です。
今回講師を務めるのはイタリアにて研鑚を積み、帰国後は演奏活動のほか、音楽大学、セミナー講師、コンクールの審査等、熱心に後進の指導にもあたられている金子淳講師です。
金子淳講師プロフィール
武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科首席卒業。同大学大学院音楽研究科修士課程首席修了、クロイツァー賞受賞。卒業演奏会、読売新人演奏会、皇居東御苑内「桃華楽堂」にて開催された御前演奏会に出演。その後イモラ国際ピアノアカデミー(伊)にて研鑽を積みディプロマ取得。
第27回ピティナピアノコンペティションF級全国決勝大会ベスト賞。第34回ピティナピアノコンペティション特級銅賞。第4回カラーリオ国際ピアノコンクール(伊)第1位受賞をはじめ多数のコンクールで入賞。
大学在学中、学内オーディションによりソリストとして選抜され、武蔵野音楽大学管弦楽団と共演。日本ショパン協会主催リサイタル、イモラ国際ピアノアカデミー25周年リサイタルシリーズ、文化庁/日本演奏連盟共催新進演奏家育成プロジェクト・リサイタルシリーズに出演。また、東京交響楽団と共演するなど精力的に演奏活動を行なっている。デビューCD<RUSSIAN VIRTUOSO>がレコード芸術誌にて準特選盤に選出される。
仙田真須美、遠藤裕子、ヤン・ホラーク、エレーナ・アシュケナージ、ボリス・ペトルシャンスキーの各氏に師事。現在武蔵野音楽大学講師、同大学附属音楽教室講師。ピティナピアノコンペティションほか国内多数のコンクールにて審査員を務める。日本演奏連盟会員。
少人数制で一人ひとりにじっくり時間を使ったグランミューズ・サロン
今回お集まりいただいたみなさんは、熱心に勉強されている方々ばかりで、難曲ぞろいのプログラムとなりました。少人数でじっくり時間をとれるため、お一人ずつ演奏→ワンポイントアドバイスという形で進行することに。みなさん、こちらにも伝わってくるほど緊張されているようすでしたが、いざ舞台に上がると、生き生きと楽しそうに演奏されていました。
演奏が終わると、講師のアドバイスタイムです。フレージングや内声のバランス、アクセントの場所などアドバイスはいずれも具体的で、一つひとつ実践していくと顕著に演奏がブラッシュアップされていきます。ある方はラテン曲を演奏され、講師も初めて出会う作曲家ということでしたが「ここはあくまでピアニッシモの中でのアクセントというイメージで表現してみましょう」とアドバイスすると演奏の表情が変わり、ラテンならではのノリをぐっと引き出していました。この日は、フランス、ポーランド、ロシア、スペインと幅広い国の作曲家の曲が登場したので、さまざまな音楽に触れられ、聞き手としても楽しい時間となりました。
その後はお待ちかね、講師による演奏です。「自分のレッスンよりも先生の演奏目当てに申し込んだんです」という生徒さんもいらっしゃるくらい、ファンから熱い支持を受けている金子講師。雰囲気の異なる2曲を演奏し、多彩な表現力を見せてくださいました。
なんでも質問OKの質疑応答タイム
最後は、質疑応答タイムです。コンクールにどんな曲をもっていくかという相談や、持参した曲への追加の質問、自宅にピアノがなく電子ピアノで練習する場合の注意点など幅広いトピックが飛び出して、講師も一つひとつに丁寧に回答する姿がありました。
驚いたのは、生徒さんの一人が「緊張しやすいことが悩みなんです」と打ち明けたときに「僕も同じです」と返答をされていたこと。プロとして演奏する上では、演奏にも責任が伴ううえ、よい演奏をお聞かせしたいという気持ちもあるため、心理的プレッシャーが大きくなると言います。「練習不足が原因のミスと、緊張が原因のミスは違います。緊張からミスをしてしまった場合は、努めて平常心を取り戻し、リカバリーすることが大切です」とコメントされていて、みなさん納得のようすで頷いていました。
イベント開始時こそ緊張感があったものの、質疑応答タイムは演奏が終わっている安心感からか、次々と手が挙がり盛り上がりを見せていました。みなさんが次の目標に向けてやる気を新たにしたところで、あっという間にお開きの時間となってしまいます。
帰り際は生徒さん同士「わたしもラフマニノフ好きなんです」「すごく緊張したけど楽しかったですね」と会話をされる姿も。PLAY新丸子でのイベントに参加経験のある生徒さんは、PLAY新丸子とPLAY江古田の違いも楽しんでくださったようで、「江古田のホールは、教会をイメージしているデザインが可愛らしいですね。舞台があるところも、ホールらしくて気に入りました」と感想を教えてくださいました!
イタリアで学んだ“歌心”をレッスンで伝えていきたい
イベント終了後に、金子講師にお話しを伺う時間をいただきました。
「少人数で、じっくりとレッスンできてすごくよかったと思います。人数が多いとどうしても慌ただしく、駆け足になってしまうのですが、今回はお伝えしたいことがお伝えできたと思います。みなさんにとって、ここで演奏を披露するのはすごく緊張することだと思うんです。そのハードルを乗り越えてここに来てくれて、本当にありがたいことだと思いますし、みなさんの向上心や日頃の努力に拍手を送りたいですね」
「音楽に打ち込んでいる人にとっては、これ以上ない物件だと思います。ホールがついてる物件は、珍しいですよね。もし自分が住むなら、コンサート前のリハーサルにぜひ使いたいと思いました。自室で練習すると音がこもるので、耳が疲れますし、本番前にはほどよい緊張感を味わうことが大事ですから。
このホールの第一印象は、まず雰囲気がよいと思いました。白を貴重としていて明るくて、クリスタルの椅子もおしゃれですよね。雰囲気からして、弾きたいという意欲を掻き立てられると感じました。“スタジオとして”ではなく、明らかに“ホールとして”作られているので、リサイタル会場としても十分成り立つなと。響きも、石畳のようなイメージで、ほどよく音が鳴っていて温かみがあると思いました」
「本当に馴染みの深い街です。長年にわたって街の移り変わりを見てきました。落ち着く街ですし、住みやすい街だと思います。物件の近くにあるラーメン屋さんがおいしいのでおすすめですよ!学生におすすめされて何回か行きました(笑)」
「イタリアは石造りの築100年以上の物件が当たり前で、自分もそのような物件に住んでいました。石造りなので、家の中でもすごく響くんですよ。練習の段階からちょっとしたホールで弾いているような感覚だったので、ステージ慣れをする上ではとてもよかったです。日本に帰ってきてからは、防音室で練習する必要があって、閉塞感にすごく違和感を感じましたね」
「朝は10時から、夜は21時までというのが“無言のお約束”だったので、それに従っていました。と言っても、イタリアにはシエスタ(昼休み)の概念があるので、その時間は演奏することができません。管理人さんからも入居当時に、13時から15時は絶対に弾いてはだめだと言われました(笑)。なのでその時間は家事や買い出しにあてて、15時から21時まで再び練習。そのあとに夕食をとるという生活をしていました」
「イタリアは、すごく歌心を大切にします。テクニックももちろん大切にしていますが、それ以上に自分の音楽をもっていて、それを表現することがよしとされる雰囲気がありました」
「自分のレッスンでも、歌心をすごく大事にしていますね。やはり機械的な演奏は、聴いている人になかなか届きません。まずは自分がどう表現したいかを考え、その表現のためにどのように指づかいやフレージングを工夫すればいいかを具体的に作り上げていくことで、“音楽”ができていくと考えています。最終的には、ただ“弾く”のではなく、“音の一つひとつが聴き手に語りかけてくる”ような音楽になってほしいですね。生徒たちにも末長く、いつか彼らが教える立場になるときまでも、そのスタンスが伝わっていったらいいなと思っています」
「音大にいるのでしたら、目の前にある課題をしっかりこなして、試験でしっかりいい成績を残す、などコツコツと足元を固めていくことが大切だと思います。また、学生のうちだからこそできること、たとえばコンクールにトライしたり、近頃はSNSがとても大きな役割を果たすので、早くから発信に力を入れたりすることも大切だと思います。
何より、本番にたくさんチャレンジすること。そしてもしPLAYシリーズに住んでいる方であれば、このすばらしい環境を十分に使って練習に打ち込んで、とことん音楽に向き合ってほしいですね。ときには周りに嫉妬したり、心折れかけたりすることもあろうかと思いますが、悔しい思いをぜひ次の原動力に繋げていってください。若いうちに挫折や失敗を知ることが大きな経験になりますし、そこから学ぶことが何より大切だと思います」
イタリアで学んだ“歌心”は、今日グランミューズ・サロンに集まってくださった生徒さんたちにもきっとお伝えできたはず。さまざまな講師のレッスンを受けることで、いろんなエッセンスを受け取り、自分なりの音楽に繋げていけるところもまた、グランミューズ・サロンの魅力だと感じました。PLAYシリーズはこれからも、音楽を愛する方々に寄り添ってまいります。