COLUMN

コラム

2024.05.23
【PLAY新丸子イベントレポート】北村明日人講師による「グランミューズ・サロン」
小原 孝(おばら たかし)

2024年4月20日(土)、PLAY新丸子サロンホールにて、ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)が後援する企画「グランミューズ・サロン」が開催されました。「グランミューズ・サロン」は、講師となるピアニストのもとに愛好家が集いピアノを弾き合う、ピアノを通じた新しい大人の交流の場です。講師は時に実演を交えつつ、演奏について助言しますが、あくまで批評や審査の場ではなく、楽曲、演奏、そして音楽全般について楽しく語らうことが目的です。

今回講師を務めるのは、第46回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリに輝いたピアニスト・北村明日人さんです。

北村明日人氏プロフィール

神戸市出身。第46回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ。併せて聴衆賞、文部科学大臣賞、スタインウェイ賞を受賞。第17回東京音楽コンクールピアノ部門第2位。Rahn Musikpreis(スイス)にて第1位。東京フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団、チューリヒアカデミー室内管弦楽団、ライゼ・カンマー・オーケストラ等と共演。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経てチューリヒ芸術大学音楽学部及び大学院ソリストディプロマ(スイス)卒業。東京芸術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。修了時に大学院アカンサス音楽賞、藝大クラヴィーア賞を受賞。テレビ朝日『題名のない音楽会』、FMヨコハマ『Piano Winery 〜響きのクラシック〜』、NHK-FM『リサイタル・パッシオ』などに出演。子どもを対象としたワークショップを開催し成果発表の場を提供するなど、次世代の音楽家の育成にも取り組んでいる。2023年8月、1stアルバム『Selig』発売。伊藤恵、Eckart Heiligers各氏に師事。

少人数×2部制でおこなわれた弾き合い会

小原 孝(おばら たかし)

非常に穏やかで優しい雰囲気の北村先生。グランミューズ・サロンを主催するのは初めてということですが、今回は2部制での企画(※通しての聴講も可能)だったこともあり、少人数で落ち着いた雰囲気の中でレッスンが進行していきました。

生徒さんの演奏に真剣に耳を傾け、預かった譜面に何やら書き入れていく北村先生。演奏が終わるとポイントとなる部分についてお話しされ、生徒さんが実際に弾いてみると、さらに踏み込んだアドバイスも…といった具合に、非常にお一人お一人と深く向き合うスタイルのレッスンをされていました。アドバイスの内容は、鍵盤タッチについてなどのテクニック的な話から、どのように楽曲を表現したいかという話まで幅広く、先生の引き出しの多さを感じさせるものでした。印象的だったのは、先生の言葉選びです。「その一音と次の一音がつながることで、このシーンを表現しているんだと“僕は”思います」「“僕の意見”ですが、変化が起きるのはこの音だと思うんですね」と、あくまで最終的な判断、解釈は生徒さんに委ねるという考え方が伝わってきて、先生の謙虚さに感銘を受けました。実際に先生が実演してくださるシーンも多く、生徒さんたちは食い入るように見つめ、少しでも多くのことを吸収しようという熱意を感じました。

小原 孝(おばら たかし)

また、個人的に特に興味深く伺ったのは、先生の音色作りへのこだわりが伝わるコメントです。例をあげると、「チェンバロらしさを感じさせる音色にするためにこのように弾いてはどうか」「後半までこの音質はとっておきたいから、ここはもっと指の重さを使って柔らかい音質にしてはどうか」「f(フォルテ)の心をもったままだとp(ピアノ)で弾いても音色に差がつかないので、温度感が冷えていく意識をもって」など、印象的なコメントが多くあり、本当に日頃から一つひとつの響きにこだわりをもって演奏されているのだと学ぶことができました。

生徒さんたちにとってももちろん、充実したお時間だったようで、レッスンが終わったあとに先生の元に駆け寄り、「本当に勉強になることばかりでとってもよかったです!」「次回開催はいつですか!」「一部から聴講すればよかった〜」「関西(先生の本拠地)まで行くのでぜひまたお願いします!」と熱いエールが送られていました。

小原 孝(おばら たかし)

「僕はレッスンの経験は浅いので……」とまた謙遜される先生ですが、そんな先生のお人柄も相まって大人気なのですね。

実はこの日は、イベントの後に先生の演奏収録もありました。長丁場のレッスンの後にもかかわらず、ハイドン「ソナタ 第53番 ホ短調 Hob.XVI:34」とブラームス「3つの間奏曲Op.117」という、合計30分ほどに及ぶプログラムを圧倒的な集中力で弾きあげた北村先生。レッスンで生徒さんにお伝えしていた音色の使い分けや、情景を思い浮かべて正確に音に反映していらっしゃることが、心底腑に落ちるような圧巻の表現力で、まるでこの日の答え合わせのように感じられる素晴らしい演奏でした。演奏動画は後日、YouTubeにて公開されますので、ぜひご覧いただければと存じます。

サロンホールを擁する防音マンションで自由に音楽を

小原 孝(おばら たかし)

さて、今回グランミューズ・サロンの会場となったのは入居者専用ホール付き物件『PLAY新丸子』です。最後に、北村先生にインタビューのお時間をいただきました。

Q
今回初めて『PLAY新丸子』にお越しいただきましたが、ぜひ物件のご感想をお聞かせください。

「居室も防音仕様で、サロンホールまであるということで、素晴らしいですよね。サロンホールがあることでいろいろ試せることが増えるので、自ずとレパートリーが広がっていくだろうなと思いました」

Q
先生でしたらどのようなことを試しますか?

「ソロ以外に、この室内楽をやってみたいなと思ったときに、合わせ場所を考えなくてもすぐに人を呼んで試せるというのがすごくいいですよね。あとは、自室のピアノだけでなく、ホールに少しでも近い環境で弾いたらどう響くのか試したいときや、今日みたいに弾き合い会をするのもいいと思います」

Q
サロンホールのスタインウェイを弾いていただきましたが、いかがでしたか。

「ホールの規模感に合った柔らかい響きで、ちょうどいいなという印象でした。長時間レッスンをしていましたが、耳が痛くなることもなく、心地よい響きでした」

Q
先生が住居に求める条件はなんですか?

「僕はピアノが部屋に入ればなんでもいいんですけど(笑)、思い立ったときに弾きたいので、24時間演奏可能というのは心強い条件です。いつでも弾ける、という安心感が違いますね」

Q
PLAYシリーズは24時間演奏可能*ですので、入居者様の心の支えになれていると思うと嬉しいですね!
先生は大学時代をスイスでお過ごしになられましたが、スイスの住宅事情はいかがでしたか?

「賃料が高いので、ピアノを家に置いている人はいなかったです。その代わり、大学が24時間開いているので、大学に入り浸っていました。よいピアノを確保するために、朝は4時に起きて大学へ向かい、5時には練習を始めるような日々でしたね。意外とその生活にも順応できましたが、先ほども言ったように、“いつでも弾ける”ほうが精神的に安定するので、今の日本での環境のほうが快適ではあります(笑)」

※楽器により使用禁止や演奏時間に制限がございます。詳しくはお問い合わせください。

100回弾いても、100回気づきがあるように向き合う

小原 孝(おばら たかし)
Q
今回のイベントも生徒のみなさまの静かな熱量と音楽への愛情の深さを感じましたが、先生はイベントを通してどのような感想を受けましたか。

「子供向けのレッスンとは違い、大人の生徒さんはご自身で曲を選んで、こういうふうに弾きたい、こういう表現したいという想いをもたれていらっしゃっている。それが演奏を聴くだけでひしひしと伝わりますから、その想いに寄り添う形でお話しができるよう留意しました。また、みなさんが音楽に対してもっているエネルギーは、自分自身ももち続けるべきものだと改めて感じる機会になり、こちらが勉強させていただいたという想いです」

Q
音楽を学ばれていると多くの先生との出会いがあると思いますが、印象に残っている出会いはありますか。

「スイスで師事したドイツ人の先生がピアノトリオを長く組んでる方だったのですが、たとえば『ヴァイオリンでは弓をアップするときとダウンするときでこれだけ音色が違うんだから、ピアノだってもっと表現に差をつけることができるはずだ』というように、楽器の垣根を超えて音質を模索されていて、新たな視点を得られました。別の楽器どころか、自然現象などからもインスピレーションを受けてピアノ表現に反映しようとする方だったんです。スイスでは大自然に囲まれた生活で、湖の向こうにアルプス山脈が見えているような環境だったので、それも影響しているだろうと思います」

Q
日本では得られない経験ですね。
最後に、これから活躍の場を広げていく若手音楽家のみなさんにメッセージをいただけますか。

(しばらく考え込んだあと)「僕が演奏しているときに常に心がけていることは、同じ曲を100回弾いても、100回気づきがあるように向き合うということです。何回弾いても、ここは好きだなあという気づきでもいいし、何回も弾いたら、このフレーズに対する自分の考え方が変化してきたなあという気づきでもいい。毎回同じように機械的に再現するのではなく、毎回初めて出会うかのような新鮮な気持ちをもっていたいと思っています。そのためには、本を読むでも散歩するでもいいですが、何かを見て、ちょっとした変化に気づき、何かを感じる機会を少しでも増やしておくことが役にたつのではないかと思います」

柔らかな物腰の中に、音楽への強い信念と深い愛情を確かに感じる、そんなピアニストが北村先生なのだと思わされる時間でした。音楽家は、ほとんど哲学者だと常々感じます。何を見て、何を感じているか、それを演奏を通して見せてくださるので、魅了されてしまうのだと思いました。

グランミューズ・サロンはそんなふうに音楽に魅せられた方々があらゆる垣根を超えて集まり、情熱と愛がぶつかり合う、他にはあまり類を見ない場所です。PLAYシリーズはこれからも、音楽を愛する方々に寄り添ってまいります。