2024年1月13日(土)、PLAY新丸子サロンホールにて、ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)が後援する企画「グランミューズ・サロン」が開催されました。「グランミューズ・サロン」は、講師となるピアニストのもとに愛好家が集いピアノを弾き合う、ピアノを通じた新しい大人の交流の場です。講師は時に実演を交えつつ、演奏について助言しますが、あくまで批評や審査の場ではなく、楽曲、演奏、そして音楽全般について楽しく語らうことが目的です。
今回講師を務めるのは、テレビ「らららクラシック」「題名のない音楽会」「映画音楽はすばらしい!」など多数の番組に出演する人気ピアニスト、小原孝さんです。
小原 孝(おばら たかし)Profile
神奈川県川崎市生まれ。 クラシックギタリストの父の影響を受け6歳からピアノを始める。国立音楽大学附属中高・大学を経て、1986年国立音楽大学大学院を首席で修了。クロイツァー賞受賞。クラシックだけにとどまらず幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも多い。
1990年のCDデビューから現在まで通算53枚のソロアルバムをリリース。全国コンサートツアーも好評でステージ数は1500回を超える。
1999年よりNHKFM「弾き語りフォーユー」パーソナリティを務め長寿番組となっている。
2006年奏楽堂日本歌曲コンクールで演奏部門の優秀共演者賞と作曲部門の中田喜直賞をW受賞。
2009年NHK教育テレビ「趣味悠々~指一本から始める小原孝の楽しいピアノレッスン」のテキストがベストセラーになる。
2015年川崎市文化賞受賞
2020年4月youtube「小原孝pianoチャンネル」開設。
2023年最新アルバム6月21日発売!
テレビ「らららクラシック」「題名のない音楽会」「映画音楽はすばらしい!」NHKラジオ「小原孝のやすらぎクラシック」「小原孝のゆったりクラシック」など出演番組多数。
川崎市市民文化大使 尚美学園大学客員教授 国立音楽大学非常勤講師
和やかな雰囲気でおこなわれた弾き合い会
今回、グランミューズ・サロンに集まったのは9名の参加者の方々。参加者の方が演奏されると、先生は熱心に聞き入ったのち、お一人おひとりの志向に合ったアドバイスをされていきました。サロンスタイルらしく、先生はしばしば全体に向けて問いを投げかけ、みなさんで一緒に考えたり、体の使い方を確認したりという時間が多く見られました。先生のアドバイスは本質的で、魔法のよう。ちょっとした違いにもかかわらず、アドバイスをもとに演奏してみると音色ががらりと変わり、ご本人も聴講しているみなさんも「全然違う!」と感激していました。指導の内容も幅広く、“バッハは一番自由に弾ける” という解釈的な部分から、跳躍が苦手という方には練習方法を具体的に伝授されるなど、目から鱗の連続です。
先生が実演される際にはみなさん身を乗り出すように聞き入り、先生も対話を楽しむかのように音楽を通じてコミュニケーションをとられているようすが印象的でした。
スタート時はみなさん緊張された面持ちでしたが、先生が温和なお人柄で場を和ませてくださり、会の途中ではしばしば笑いが起きるなど、最終的にとてもアットホームな雰囲気に包まれていました。
魅力的なアクセスで、いつも音楽の側に
レッスン後、先生にお話しを伺うことができました。
「ここに住みたいくらい気に入りました(笑)。すばらしい物件ですね。ホールがあるのももちろんよいですし、部屋に自身のグランドピアノを搬入できる点や24時間弾けるところもよいですね。今住んでいるところは完全な防音ではなく時間に制約があるので、夜は書く仕事やアレンジの仕事をしています。でも、どうしても譜読みのために時間がないときは電子ピアノを使うこともあるので、24時間演奏可能というのは心強いんじゃないかな」
「重視することの一つはアクセスです。実は今も比較的近いエリアに住んでいるのですが、この辺りはさまざまなホールへのアクセスもよいので、遅い時間の演奏会にも足を運びやすくてよいと思います。この物件は駅から徒歩3分と、非常に近いのもよいですね」
「もちろん、いろんなことに使うと思います。自身のYouTubeチャンネルを開設したので動画をとるのに使いたいですね。広いし片付ける必要がないからいいですよね(笑)。
また、スタインウェイのグランドピアノがあるというのもよくて、やはり蓋を全開にして音の繊細な鳴りを感じながら演奏する機会を得られるのは貴重なことですね」
「重要ですよ。ピアニストは、普段から違う環境で演奏をすることに慣れておくべきです。なぜなら自分の楽器を会場に持ち込むことができないし、観客の有無や室温などあらゆる要素で楽器の状態が変わるため、一つとして同じ環境はないからです。いかに与えられた環境で実力以上のものを発揮するかという、応用力や適応力、胆力が求められるのですが、いつも同じ練習室の閉ざされた環境でばかり演奏していると、そうした順応力がなかなか得られにくいんですよね。
今回のレッスンでも、開始前に参加者さんたちの指鳴らしの時間をあえて余裕をもって設定した理由は、少しでも本番で力を発揮して音楽を楽しんでほしいという思いがあるから。普段からそういう思いがあり、生徒さんの発表会前にホールを借りて、ホールでレッスンを頻繁におこなっています。ですから、こうしたホールがあって日常的に利用できる環境はすばらしいと思いますね」
成功の秘訣は、諦めないこと
「わからないように演奏していますが、実はわたし、小指の腱を切ったことがあって、思うように動かない。幼少期から左手の薬指にハンデがあったのですが、それを庇って弾いていたところ、プロになってからコンサートの最中に腱を切断してしまったんです。昔から、同世代のみんなが泣きながらコンクールに向けて特訓している中で、わたしはコンクールに出させてもらうこともできなかった。でもその代わり、先生から怒られることもなかった。それを、ラッキーと捉えたんです。
なにごとも受け取り方次第で、一つの事実がネガティブにもポジティブにもなりますよね。もともと好きでやっているピアノですから、多くのことをなるべくポジティブに受け取るようにしていたと思います。そういう意味では、音楽をずっと楽しんでこられたと思います」
「まじめになりすぎず、少し柔軟に考えてもいいと思うんですよ。たとえば学生の立場ですと、複数の先生から違うことを指導されて混乱するような局面もあるかもしれない。そんなときは、両方の解釈をものにしてしまったらいいんです。多くの知見を得られてラッキーだったと考えましょう。そして最終的にどう演奏するかはみなさん次第ですから」
最後に、これから活躍の場を広げていく若手音楽家のみなさんにメッセージをいただけますか。
「なんといっても、諦めないこと。極端な例にはなりますが、わたしがデビューした34年前は、『猫ふんじゃった』やポップスをコンサートで弾くなんて認め難いと、上の世代から非常に怒られたんです。また、今では当たり前のトークを交えた演奏会スタイルも、当時はかなり顰蹙(ひんしゅく)を買って、『ピアニストは喋るべきではない』と批評されたことも。でも、わたしは自分のスタイルを変えなかった。反骨精神もありましたが、なにより自分を信じていたので、周りの声に左右されなかったんです。そして今、当時わたしの音楽に親しんでくれた子供たちが、世界的に活躍する音楽家に育ってくれています。それを見てついに、当時やっていたことが正しかったんだと確信できました。答えはすぐ出るんじゃなくて、ずっと後からわかることもあるんです。だから自分の道を自分らしいやり方で進んでください」
一つひとつ言葉を選んで、確かにメッセージを伝えてくださった小原先生。少しお話ししただけでも、すべてを包み込むかのような懐の大きさを感じ、その包容力こそが小原先生の音楽から感じられる“暖かさ”なのだと気づくことができました。
今回グランミューズ・サロンに参加されたみなさまも、心から小原先生を慕われており、会を心から楽しまれているようすが伝わってきました。
PLAYシリーズはこれからも、音楽を愛する方々に寄り添ってまいります。